ナボハ族〜創世神話

どの様な民族にも独自の神話がある筈である。
神話は時には民話になり、逸話にもなる。
インディアンの世界にも様々な神話があるが、中でもナバホ族 の創世神話は、長く、波乱に富んでいて面白い。
ナバホ族の生活の中では、様々な場面でその神話が息づいて いるようである。
バウワウなどの祭りや東西南北についての考え方、家畜や食料 についての考え方、家族についての考え方、死についての考え 方、ETCと、神話はナバホ全体の文化を支えているようである。

彼等の創世神話は4つの聖なる山に囲まれた世界の中だけで完結 していて現在の世界は、「第五の世界」となる。
キリスト教が拡張していく神話であるとすれば、ナバホ神話は完結し ている神話といえよう。
キリスト教の聖書が布教によって世界に広がっていく事と比べると ナバホの神話は、彼ら自身の為だけにあるモノだという考え方である。

ナボハの神話は、儀式の時に砂絵などによって表され、メディスンマン による口承で伝えられてきたので原典というものは、ない。
その為、メディスンマン達によって解釈の違いが生じる事もあり、彼等 自身は、話しを生き生きとさせる為に脚色を加えていった。
その為、ナバホの神話は、展開の多い、長編となっている。
概略

●世界の始まり

遠い昔、まだ人が獣のような形をしていた頃は、神はトウモロコシから 「最初の男」と「最初の女」を創り給うた。
アダムとイブと同じ。

●第一の世界

第一の世界は暗く、闇の中に最初の男女と創世者でありペテン師でも あるコヨーテがいた。
3つのものは、第一の世界が狭くてくらいので、 第二の世界へと脱出する事にした。
●第二の世界

第二の世界には、太陽と月と東西南北があった。
太陽と月は、未熟だったので第二の世界は、ボンヤリとした明るさだけが あった。
東は黒く、西は黄色く、南は青を、北は白さをもっていた。
時々、黒さが強まり、世界を闇にし、また時々、その他の色彩が強まり、 世界を昼間にしていた。
太陽は「最初の女」を好きになってしまい、言い寄った。
しかし、彼女は、受け入れず、太陽と争いになってしまった。
そこでコヨーテ現われ、仲裁にはいった。
東西南北も加わって話し合った結果、第二の世界も狭いので太陽と「最初 の女が離れて暮せる様に、第三の世界へと上る事にした。
●第三の世界

第三の世界には4つの山と湖があり、人々は山の斜面にすんでいた。
まるで 地球の様に広く、美しい世界だった。
更に第三の世界はティーホルツォディという水の怪物が住んでいた。
人々はティーホルツォディをそっとしておく様にと教えた。
 しかし好奇心の強いコヨーテは、一人で湖に散歩に出掛け、ティーホルツォ ディの二人の子供を見つけると毛布にくるんで連れて帰ってしまった。
ティーホルツォディは、我が子がいなくなった事に気付くと激怒した。
「私の大切な子供をさらったのは、誰だ!!」と地響きを立てて探し始めた。
しかし、見つからないのでティーホルツォディは、考えた。
「最近この世界に入ってきた者たちが怪しい」そう考えたティーホルツォディは 世界を水でいっぱいにしてしまおうと考えた。
みるみるうちに第三の世界は、沈んでいった。
慌てた3つのモノと人間は、 会議を開き、3つの山を一つの山の上に積み重ねる事にした。
それでも沈んでしまいそうになると今度は、山の頂上に葦の種を植えた。
すると葦は、グングンと成長していき第4の世界まで伸びていった。
第三の世界に住む全ての者は急いで葦の幹の中を登った。
その時最後に登ったのが七面鳥だった。七面鳥は、水で尾が濡れた時には けたましく鳴く事になっていた。
以来、七面鳥の尾は洪水の時水に濡れた 水位線が美しく残っているという。>
●第四の世界

第四の世界には、大きな霞んだ光が3つあった。
第三の世界に似ていたが、より広大で平原の中央には、大きな川さえ流れていた。
川よりも北には人々が住み、南には動物の様なモノが住んでいた。
この世界は時間の流れがとても速くて一日に一年も流れていく世界だった。
北に住む男女は仲良く暮していたが幾歳月が流れた頃言い争いが起こった。
女は、男に「自分達はいつも火を灯したり綿を採ったり畑の植物を栽培したり、陶器を 造ったりしている。しかも女は子供を産まなければならない。
これは不公平だ」 これに対して男は、「女は、男が狩りをするから肉が食べられるのだ。
男が家を建てる から住めるのだ。
畑だって力を入れて耕すのは男ではないか。
それに神様との やりとりする為の踊りや対話も男がやっているのだ」と反論した。
すると女達は怒りだし 「そんな事を言う男達とは一緒に住めない」と言って川を渡って行ってしまった。
男女は、いがみ合い、恋をしあいながら、4年の歳月が流れた。
その間に女だけの世界は農作物の収穫が減った。
それに女は、女だけで畑を耕し種を撒く作業を楽しくないと思い始めた。
男だけの世界では、農作物の収穫が増え狩りで仕留めた獲物の肉も余るほど蓄えた。
しかし、男だけで畑を耕すのは面白くなかった。
女は知らず知らずの内に川を渡っていた。
それは、男と女が互いの足らない部分を補っていかないといけないと気付く瞬間であった。
男女がそれぞれの役割を果たす事によって世界には平和が再び訪れた。
 しかし、人々は新たな禍に巻き込まれる事になった。
コヨーテが第四の世界にまでティーホルツォディーの子供を連れてきてしまった事である。
第三の世界をすっかり水で満たしてしまったティーホルツォディーは、第四の世界までも水に 沈めてしまおうとしていた。
そしてある日突然、地下から水が噴き出して人々は洪水に 襲われ流されてしまった。
第四の世界に住む全ての者は、皆で強力して平原に4つの山を積み重ねて葦を植え た。すると葦は瞬く間に成長して雲を突き抜けて伸びていった。
葦はやがて第五の世界の底にあたり、そこで止まった。
そこで、アナグマに穴を掘らせたが、アナグマは、泥の湖の底い出てしまう事に気が 付いた。
アナグマは途方に暮れ、そのうちに第四の世界は水に沈んでいきその水は 葦の幹の中まで入っていった。
狭い幹の中は押し合いへし合いで大混乱となった。
その時、バッタだけが第五の世界に吸い込まれ湖の上に飛び出した。バッタがあたり を見回すと白鳥が数羽いた。
白鳥はバッタに言った。
「もしも、この世界に入りたいのであれば、私のやる事と同じ事をやってみせろ。」
そう言うと白鳥は一本の矢を口から入れ肛門から出した。それを見たバッタは、絶対 に出来ないと思い考えを巡らせた。そして思い付いた。
「僕にはもっと凄い事が出来る。」と、言うと一本の矢を自分の腹に刺し貫いた。
これを見た白鳥達は驚いて「こんな凄い事が出来るのであれば、この第五の世界に 入る事を許可してやろう。」と言った。
バッタのお腹にあたる部分は実は大切な体内器官ではなかったのである。
白鳥達は、それを知らすバッタに不思議な力があると思い込んでしまったのである。
こうして第五の世界に入る事が出来た。
しかし、全ての者がようやく地上に上がった時、陸地に角が現れた。
ティーホルツォディーの角であった。そして第五の世界もどんどん水没していった。
 恐れた人々はそれぞれの些細な罪の意識から自分が第五の世界に持ち込んだ モノを見せ合った。
そこでコヨーテがティーホルツォディーの二人の子供を連れている事が発覚した。
皆は、コヨーテから毛布ごと奪うとティーホルツォディーになげ返してやった。
すると水は退いていきティーホルツォディーは、自分が元にいた世界に戻っていった。
●第五の世界

第五の世界は、初めは暗闇だったが、東の闇の神に祈ると大きなナイフで闇を裂き光を与えてくれた。
すると水はたちどころに退いていったが、大地は、まだまだぬかるんでいたので今度は 東西南北の風に祈った。
すると4日間強風が吹き、大地を乾かした。
大地はまだ形成されていなかった為、人々は土を練って積上げ、また4つの山をつくった。
やがて大地が広がっていくにつれて山は大きくなりそれが四隅となって境界が現れた。
次に人々は太陽と月を空に太陽と月を放り投げた。
太陽は最初は低すぎ、大地を焼いてしまったが徐々に昇っていき5日目に天頂に落ち着いた。
しかし太陽は動かず大地を干上がらせてしまいつつある。
太陽を動かすには生け贄が必要だと感じた大酋長の妻は、叫んだ。
「私が人身御供のなるから、部族を助けて欲しい!」
そして自らが生け贄となった。
大酋長の妻の呼吸と心臓の音は次第に弱まっていき、やがて息を引き取った。
そこで初めて、皆、死という概念を理解した。
そして死と引き換えに太陽は規則正しく順行していくが、この世で毎日誰かが死ななくては、 いけないという運命を理解した人々は、恐れた。
死を恐れる人々の為に賢者は大酋長の妻がどこに行ってしまったか探しに行った。
 そして第五の世界に脱出してきた時の入り口を覗き込むと死んだ大酋長の妻は第四の世界で暮していた。
それを見た賢者は皆に知らせようとしたが、段々と弱っていき、ある夜死んでしまった。
コヨーテは、ナバホの人々に告げた。
「毎日、誰かが死ななくてはいけない。だがそれは、ナバホの者である必要はない。」
その他ナバホでは「死者の顔を見つめると、自分にもすぐに死が訪れる」という迷信が 生まれ死者の顔を布で覆い隠して埋葬する習慣が生まれた。
第五の世界が死を代償する事によって昼夜が順行する世界だと知った時から人々は、 部族に分かれそれぞれの場所でそれぞれの生き方で暮すようになった。
山の住人になった種族や平原の住人になった種族もいたが、ナバホは、四つの峰に囲まれた山が一つある中央に残った。
そこには火口があったが、彼等はそれを脱出の地だと崇めて近づかなかったと言われている。
 ただし、最初の男女とコヨーテは、別だった。
彼等は空が美しくないと思っていた。それで火口の付近まで行って「輝く石」を探し夜空の 四隅にそれを置いた。
輝く石は星になった。
彼等は更にその周りに星を散りばめた。
 しかし、コヨーテが輝く石の屑を夜空にばら撒いてしまった為、星の配置は、不規則になり、 あちらこちらでバラバラに輝く様になってしまった。
更に彼等は、満月だけでは面白くないと思い半月や三日月など色々な形の月を夜毎に空に放った。
月が増えた為1年はこれまでより長くなった。
 そして、これによって世界に時間という概念が生まれた。
ある日、空から雪が降ってきた。
この雪は、冷たくなくパンの様な味がした。
しかし、コヨーテは、喉が渇いていた為、雪を火に掛けて溶かしてしまった。
溶けた雪は水になりコヨーテは、それを飲んで満足していたが「最初の女」は怒った。
「どうして水なんかにしてしまったのか?!」
この問に対してコヨーテは、答えた。
「雪は冬の間に山々に積もり春になると溶けて流れ出す。そして大地に恵みを与える。
水はトウモロコシや豆などの食料を育ててくれる」
「最初の女」は、コヨーテのこの答えに理解した。
そして、その後、コヨーテは、沢山の種を人々に分け与え人々の暮らしは安定した。
双生児の怪物退治

第五の世界で人々は、幸せに暮していたが、慢心していた。
幸せな生活は全て自分達で築き上げたのだと主張し始めたのであった。
「最初の男」と「最初の女」は、それに立腹し、人々を懲らしめる為に人間を食べる怪物を創造した。
「巨人イェーツ」「人食いカモシカのデルゲット」「人食い鷲」「人を崖から蹴飛ばす怪物」「目から光線を放つ怪物などを次々と誕生させた。
怪物達は、大暴れして人々を苦しめた。
それを見ていた「最初の女」は次第に心痛した。
そこで、「最初の女」は出掛け、北西の山に寝ている少女を発見すると北西の家に連れ帰り育て始めた。
少女の名はエスタナトレーヒといい、4日間で人々の自由を守る者として成長し 大人になった。
双生児の誕生

ある日、エスタナトレーヒは、森の中で美しい男性と出逢い、楽しい時を満喫していた。
その男性が「太陽」である事を後で知った。
彼女は森の中の小屋で4日間、太陽と仲良く暮した。
しかし、太陽は去っていきその4日後エスタナトレーヒは、双生児を産んだ。
兄の名前はナヘナッツアーニ、弟の名前はトバデスチンと名付けた。
兄弟は4日間で大人となり、更に4日後は父親を探そうと思い立ち5日目に旅立った。
二人は太陽の家が東のツォツィル山の向こうに住んでいる事を突き止め訪ねた。
太陽は外出中であった。
そこには、太陽の正妻との間に生まれた二人の兄弟がいて、訪ねてきた不義の兄弟を 見るや否や「兄弟」と認識して二人をすぐさま毛布に包んで棚に隠した。
そこへ太陽が帰って来た。太陽は認めざる二人の子供が訪ねてきた事を知り棚から二人 を引きずり出し、二人を天空まで連れて行き四つの峰に順に落としていった。
しかし、二人は生きていた。
試練に耐えた二人に太陽は贈り物を与えようと言った。
そして、東西南北のドアがある所まで連れて行かれた。
東のドアを開けると馬の群れがいた。
西のドアを開けると貝殻やトルコ石などの宝石が散り
ばめられていた。南のドアを開けると美しい着物や布があり、北のドアを開けると狩人達が
求める動物達がいた。
太陽はどれでも好きなモノを選べと言ったが、二人は「どれも欲しくない」と答えた。
「人々が怪物に襲われて苦しんでいます。私達は怪物を倒せる武器が欲しいのです」
二人が答えると、太陽は心身ともに立派な二人を息子と認める事にした。
そして、ナイフと雷の矢、鉄鉱石で飾られた鎧を与え、更に黒と赤の風の精霊が宿る玉の 入った袋をお守りとして与えた。
巨人イエーツォ退治

太陽が二人を抱えると空から下界を観察した。
その時、巨人イエーツォが暴れているのが見え二人はこの怪物から退治する事に決めた。
二人はイエーツォがいつも水を飲み干すというツォツィル山の泉まで行き待ち伏せした。
そして、暫くするとイエーツォが戻ってきた。
二人の姿にき気付くとイエーツォは凄まじい形相で襲いかかってきた。
イエーツォは、雷の矢を二人に放った。
しかし、二人は素早くそれを躱しナイフで攻撃を 仕掛けた。
しかし、イエーツォの鎧は硬く歯が立たない。
二人は苦戦を強いられた。
 その時、イエーツォが落雷に撃たれた。
それは、二人の父である太陽が天空から見舞った一撃であった。
更に太陽は、強風を吹き付けイエーツォの鎧を消し去った。
このチャンスを利用して二人はイエーツォに斬りかかりナイフで頭を切り倒した。
地に落ちた頭は巨大な赤い岩となり、頭を失ったイエーツォはゆっくりと倒れ、絶命した。
首の斬り口からは、大量の血が溢れ出しその勢いで深い谷が出来た。
人食いカモ鹿・デルゲット退治

イエーツォ退治に成功した二人は、一度母親エスタナトレーヒの元に帰り次に人食いカモ鹿 デルゲットを退治する事を告げた。
しかし、怪物に矢を向けた今、母親の身も案じられ弟のトバデスチンは、一緒に残る事に した。兄のナヘナッツァーニは、一人で旅に出た。
人食いカモ鹿・デルゲットは、見通しのいい平原に住んでいる為敵の動きを察知する能力が 鋭く、ナハナッツァーニは、容易に近づく事が出来なかった。
その時、地面に穴を掘って移動する動物グラウンド・ラット(げっ歯類)がアドバイスした。
「地面の中なら気付かれないよ」
これにヒントを得たナヘナッツァーニは、早速自分の足元から穴を掘り、デルゲットの真下 まで来るとそこから更に放射状に地下の道を作っていった。
そしてデルゲットの真下から顔を出すと心臓めがけて一撃、矢を放った。
デルゲットは、絶叫しようとも、倒れはしなかった。
手負いとなったデルゲットは、目蔵滅法に角を地中に突き刺し始めたが地中にいる彼ナハ ナッツァーニは、それをことごとく躱し、時々地上に顔を出すとデルゲットに矢を放つというヒット&アウェイ攻撃を繰り返していた。
そして、最後に彼が渾身の力を込めて放った矢はデルゲットの心臓を刺し貫いた。
デルゲットは、断末魔の絶叫をあげると大地に崩れ落ちた。
そしてデルゲットの腹から腸を引きずり出すと空高く挙げて勝利の 雄叫びをあげた。
人食い鷲退治

勢いを得たナヘナッツァーニは、今度は、人食い鷲に挑む事にした。
人食い鷲は、険しい山の上に巣をつくっていた。
人食い鷲は、つがいで、凶暴で、雄の鷲は人間の男を、雌の鷲は,女を捕まえると、嘴で咥え 空高く舞い上がり上空から落下させて殺し、雛達に与えていた。
彼等が近づいてくると雷鳴や豪雨が轟いたという。
地上にいて彼等と闘うのは不利と判断したナヘナッツァーニは、一計を案じデルゲットの腸袋 に動物の血を詰めそれを体に巻き付けて人食い鷲に咥えられるのを待った。
案の定、血の匂いを嗅ぎ付けて雄の鷲が現れて彼のからだを咥え上空に舞い上がり地面に 叩き付けた。
一面に血が飛び散り雄の鷲は、餌を殺した気になったが、その血は、腸袋に 詰めておいた血だった為、ナヘナッツァーニは、生きていた。
腸袋が地面に叩き付けられた衝撃から守ったのである。
 そうとは、知らない雄の鷲はナヘナッツァーニの体を咥え雛の待つ巣に、餌として彼を投げ 込んだ。
そして、巣の中で、ナヘナッツァーニは、雛達に突つかれながらも、なんとか、 雛達を手なづける事に成功し、親鳥達が帰ってくるのを、隠れ待っていた。
やがて、突如、空が暗くなったかと思うと、雷鳴が轟き、雨が降り出し、豪雨となった。
人食い鷲が帰ってくる前兆である。
ナヘナッツァーニが息を潜めて巣に隠れていると、血まみれの男女が投げ込まれた。
鷲達が、つがいで帰って来たということだ。
 そして、雷の矢を立て続けに討ち放ち、二羽の人食い鷲を退治する事に成功した。
ナヘナッツァーニは、遺された雛達を、殺すべきか、生かすべきか、悩んだが、結局、空に放してやった。
雛達は、すぐに成鳥となったが、人食い鷲では、なくて、現在の猛禽類達の 先祖となったという。
巣の下を見ると、とてつもなく高い絶壁となっていて、ナヘナッツァーニは、途方にくれた。
翼がないと、とても降りられそうにない状態だったからである。
 すると、遥か下をコウモリ女が旋回しているのが見えた。
ナヘナッツァーニは、叫んだ。
「助けてくれ!!ここから降ろしてくれ!!」
何度か叫び、ようやくコウモリ女が、彼に気付き、答えた。
「助けて欲しいなら後ろ向きに立っていなさい。私が飛ぶ姿を見てはいけません。」
「見えないでしょうけど私は背中に篭を背負っているからその中に入りなさい。そして私が 飛ぶ姿を決して見てはいけません。」
ナヘナッツァーニは、言われた通りにした。
すると、体が急降下してそれから不意に緩やかな降下に変わった。
不思議に思ったナヘナッツァーニが一瞬目を開けると再び急降下して 上から毛布がかけられた。
視界が遮断されると再び緩やかな降下に変わり、やがて地上に着いた。
ナヘナッツァーニは、地上に落ちて死んでいる人食い鷲から羽を引き抜き 自分の翼として使う事にした。
コウモリ女にも羽をプレゼントした。
コウモリ女は、狂喜した。
ナヘナッツァーニは、コウモリ女に忠告した。
「羽を持って黄色い花の咲く野原を横切ってはいけない。」と。
しかし、コウモリ女は、目の前に咲き乱れる黄色い花に誘われて野原に踏み込んでしまった。
すると彼女の背中の篭から小鳥の歌声が聞こえてきた。
羽は歌を歌う小鳥達になってしまったのである。
しかし、コウモリ女は、これをむしろ喜び小鳥達を世界に放ってやった。
人食い鬼退治

ナヘナッツァーニが母親エスタナトレーヒのもとに帰ると、弟は耕作をして暮していた。
しかしナヘナッツァーニには、まだやらなければいけないことがあった。
 次の相手は、山に住む「人食い鬼」だった。
人食い鬼は卑怯だった。
岩と同化するように山道に隠れ人が通ると崖から蹴り落として殺し死肉を食らっていた。
人食い鬼の髪は長く岩の中に根を生やすように、絡み付いていた為 自らが誤って落ちる事はなかった。
ナヘナッツァーニは、翼を使って宙に舞い、魔法の杖で攻撃した。
素早い動きで鬼の背後に廻り蹴りつける。
その攻撃に鬼がムキになると、ナヘナッツァーニは、鬼の髪を、切っておき、また背後から蹴った。
髪を切られた事に気付かず、自分は落ちないでいたつもりの鬼は、 絶叫しながら転落して死んだ。
鬼には、妻子がいたが、既に腐肉を食べる鳥に変化しており、ナヘナッツァーニが見た時は丁度、 人食い鬼の死肉を刻んで食らっているところだった。
電光怪物退治

最後に残った強敵、目から怪光線を放つ怪物を退治する為に、ナヘナッツァーニは再び旅に出た。
電光怪物は光り輝く宮殿に住み、そこに人々を誘い入れては目から電光を放って殺していた。
そこで、ナヘナッツァーニは、塩を掌にしっかりと握り、人々に混じって宮殿に入っていった。
 怪物が現れナヘナッツァーニに攻撃を仕掛けたが、効果は、無かった。
ナヘナッツァーニは、太陽の子だったから、もっと強い電光に守られていたからである。
電光怪物は、4度電光を放ち、その度に目が飛び出してきた。
そこで、ナヘナッツァーニは、塩を怪物に投げつけた。
すると塩は、黄色い炎を揚げて炸裂し、怪物の目を焼いた。
無力になった怪物に止めをさすと、ナイフで怪物の頭皮を剥ぎ取った。
そしてそれを持ち帰ると怪物達に対する勝利のダンスを踊ったという。
最後の踊りと太陽の未練

怪物達は滅びたが、まだ心配の種があった。
巨人イエーツォの子孫がまだ生き残っていた事である。
彼等は人々に危害を加えるようになっていた。
そこで兄弟は聖なる地に向かい、以前、太陽からもらった黒と赤い風の精霊が宿る玉を 大樹の根に置いた。
そして、マジナイの唄を唄いながら踊ると凄まじい風が吹いて竜巻が起こり 大樹を天空に舞い上げた。
大樹はイエーツォの住む山まで飛んで凄まじい勢いで落下し、子孫は死に絶えた。
こうして怪物退治は完遂した。
太陽は二人の息子の活躍に喜んだ。
しかし、心中は違っていた。
誇りにする二人の息子の母親であるエスタナトレーヒに対する未練が生じたからである。
そこで太陽は西にエスタナトレーヒの宮殿、東にエスタネトレーヒの両親である「最初の女」と「最初の男」 の為の宮殿を建てた。
これによって太陽が夕陽となって大地に帰る時は、 いつも美しいエスタナトレーヒの姿を見れるようになったという。
しかし、太陽にはもう一つ思う所があった。
エスタナトレーヒの母である「最初の女」に、まだ未熟だった頃に言い寄った事があった事である。
しかし、愛する女の母親に欲望を抱くのは恥ずべき事であると考え、さっと通過するようになった

ナバホ族の産み直し

世界に静寂が戻った。
しかし、ナヘナッツァーニとトバデスチンは、地上に人間がいなくなった事に気付いた。
太陽に相談すると、お前達の母エスタナトレーヒなら解決方法を知っている筈だと答えた。
二人がエスタナトレーヒに相談すると彼女は二つの篭を用意し右の篭には白いトウモロコシ をひいた粉を入れ、右の乳房を振ると、乳が飛び散ってそこにかかった。
左の篭の中に黄色いトウモロコシの粉を入れ、左の乳房を振ると、飛び散った乳がそこにかかった。
そしてエスタナトレーヒは、右の篭の中のモノを捏ね上げて男の形を造り、 左の篭の中のモノを捏ね上げて女の形を造り、2体を毛布に包んで一晩寝かせた。
すると人間の男と女になっていた。
こうして新しく生まれた人間達は、4日後に子供をつくれるようになった。
更に彼等は4日ごとに子供をつくったので、新しい人間はどんどん増えていった。
しかし、新しい人間は昔の人間とは違って罪を犯したら自分を 罰するようになり、その時から人間は無秩序に増えなくなった。
新しい人間達は、大地の四隅にそれぞれ家を建てて暮し始めた。
これがナバホ族の始まりである。
エスタナトレーヒは、その後、西の家に向かい、その途中でも新しい人間を作った。
それらもナバホ族の祖先となった。
エスタナトレーヒは彼等にクマ、ヤマネコ、ピューマ、ハリネズミなどを送り、彼等の生活の
糧とし、また護った。
ナヘナッツァーニとトバデスチンは、二つの川が合流する場所の近くの 洞窟に住むようになったが、人間達には彼等の姿は、見えず、時々水面に 映る姿が見えるだけであった。
エスタナトレーヒは、日没の女神となって西の家に住み、自然を司る存在となった。
人間達の為に季節を創り丘や大地から採れる植物を与えた。
空と東の間に住む「最初の女」と「最初の男」は、いつしかエスタナトレーヒを妬む様になっていった。
そして、人間達に戦いや病気を送り、最後には白人を差し向けたという。

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