▼国富は国外の強者に流れていた
 

一九九〇年前後から

現在にかけて、

 

税制や会計制度など

 

輸出大企業や株主
にとって

 

有利な制度が次々とでき上がり、

 

それが

労働者の賃金低下

と重なったために

 

中間層の衰退という

大きなゆがみとして

現れていることを

説明してきた。


  強者優遇の制度

変更の数々が

国内で着々と

おこなわれていったことで、

中間層の困窮化
か進んでいった

といえるだろうが、

 

大企業優遇の制度や

消費税の徴収だけであれば、

お金がやがては

国内へと還元されることにもなり、

これほどまでの深刻な

一般国民の所得の

低下をまねくことは

なかったかもしれない。


  言うまでもなく、

強者は

国内だけにいるのではない。

 

「失われた二〇年」

を通じて、

国民が一生懸命働いて納めた

数兆円という単位の税金が、

 

あるいは

国民がゴツゴツと

貯めこんだ貯蓄が、

あっというまに

国外へと

流れていってしまった。


  そのことを

実際に国際金融取引の現場に

身を置きながら痛感し、

とりわけ為替取引を通じて、

国際金融の強者の論理から

国富が流出するさまを、

まざまざと見せつけられてきた。

これまで見てきた制度上の問題のなかには、

じつは

集められた日本国民の富を

国外へと流出させるスキームが存在する、

といえるだろう。
  畢竟(ひっきょう:つまり、結局)、

日本にとって最大の強者とは

アメリカのことであるが、

本来

日本人のために

国内で使うべき資産を

ほとんど無防備なままに

主にアメリカへ

(あるいは一部欧州などの海外へ)

と流し続けてきたことが、

「失われた二〇年」

の傷を一層深めてしまった

のではないか。


  そこで

中間層衰退の国外要因として、

日米の金融史に

フォーカスを絞って
国富の流出状況を

考えてみる。

 

▼安倍政権による

アメリカヘの五〇兆円の貢ぎ物
 

2012年11月から13年1月にかけて、

1ドル=70円台から90円台まで

一気に円安が進み、

株価もうなぎ登りに上昇しているさなか、

海外の金融情報ベンダーから

驚くようなニュースが

舞いこんできた。


「日本経済を支えようと

円安を誘導するため

米国債を買い入れようとしている

安倍晋三首相は、

米国債の投資家の中でも

米国の無二の親友となりそうだ。
  野村証券と岩田一政・元日本銀行副総裁

によれば、

安倍首相が総裁を務める

自民党は

五〇兆円に上る

公算の大きい外債を

購入するファンドの設置の

検討を表明。

JPモルガン証券は

総額が

その二倍になる可能性もある

としている。

日本経済は

二〇〇八年以降で

三度目
のリセッション

(景気後退)

に陥っており、

外債購入

となれば

ここ四ヵ月間で

12%

下落した

円をさらに押し下げる

とみられる」

 (二〇一三年一月一四日付ブルームパーク)
 

この記事で書かれていることは、

安倍首相が

「日本政府がファンドを創設して

米国債五〇兆円を購入しましょう」

と検討している、ということである。

日本は再び、

小泉政権時代の愚を

繰り返すのかと

嘆息した読者も

多いことだろう。


  小泉政権は、

二〇〇一年から二〇〇四年までの期間、

総額

42.2兆円

にものぼる

大規模なドル買いの為替介入を

実施した。

 

日本の為替介入の歴史を

振り返ると、

二〇〇〇年までの

数十年間の累積が

四〇兆円であるので、

わずか四年で

介入金額の累計を

二倍にして

しまったことになる。
 

その後の民主党政権による

ドル買い介入の総額も、

約一六・四兆円に達した。

つまるところ、

2001年から2011年にかけての

11年間で、

日本は

58.6兆

もの

ドル買い介入を

実施したことになる。
 

買ったドルの使い道の内訳は

公表されていないが、

ほとんどは

米国債の購入に

あてられている

と考えられている。

二〇〇一年以降、

平均すれば

日本は

毎年

五兆円を超える

米国債
を買っている

計算になるが、

これは

消費税

一年間の税収の

半分以上にあたる

金額である。


▼ドル買い介入の

目的

アメリカの借金穴埋め

かつて米国債の売却を

橋本首相がほのめかした直後、

国際金融市場が混乱をきたし、

その発言からわずか

一年後に退陣したという経緯がある。

結果、

買うのは簡単でも

売却するのは難しいのが

米国債、

というイメー・ジが

国民に定着したのは

周知のとおりである。
 

この

六〇兆円近い

ドル買い介入

は、

いったいなんのために

実施されたのか。

 

政府の公式見解は

「急激な円高を阻止するため」

というものである。
 

では、

円高を阻止するのは

なんのためか。

 

円安になることで

恩恵を受けるのは

輸出企業であるから、

結局のところ、

政府の回答は

円安にして、輸出企業を助けたい

ということになる。
 

 

現実はどうだったか。
 

小泉政権がドル買い介入をした

当時の為替レートは、

1ドル=1〇〇円近辺であった。
それから

1〇年あまり、

円の通貨価値は

趨勢的に上がり続け、

2011年10月、11月

民主党政権下での

ドル買い介入が

終わった後も

八〇円

であった。

 

つまり、

六〇兆円
ドル買い介入によっても、

円安には

ならなかったのだ。
 

これは、

日本が置かれ続けた

状況を考えれば、

当然であろう。

 

少なくとも

この十数年、
日本の

デフレ脱却は

困難とされ、

その解消方法について

国をあげて

侃侃諤諤

していたわけである。

 

先述のとおり、

デフレというのは

モノの値段が下がり、

通貨価値が上がるという
経済現象である。
 

 

先進各国の経済状況がよければ、

海外を目指して

経済成長が低迷している

日本から

投資資金が流出していくことで

一時的な円安にはなる。

 

ところが、

古くはロシア通貨危機や
九・11同時多発テロなど、

最近でいえばサブプライム危機や

リーマンーショックのような経済危機が

発生したため、

その煽りを受けて

減価する各国通貨をよそに、

通貨価値が

かわらないスイスーフランや、

デフレでむしろ通貨価値が上がる円を

目指して逃避資金が

流れこみ、

スイスーフラン高、円高になった。


  さらに、

ここ数年は

住宅バブル崩壊の後遺症で

先進各国の経済が低迷し、

輸出でなんとか

最悪期を凌ごうと、

あるいは

経済を牽引しようとして、

通貨切り下げ競争をしている

状況であった。

 

そのようななかで

日本のデフレが継続となれば、

為替市場において

円安に反転することは難しい。

 

こうした事象は、

実務経験をともなわなくとも、

多少なりとも経済学をかじり、

デフレの定義を知っている者であれば

容易に推測ができることであろう。
  通貨価値が高くなる、

すなわち円高になるのがわかっていながら、

それでも

減価していくドルを買い続けたのが

日本である。

結論からいえば、

これまで

いくら日本政府が

為替介入で

ドル高円安を目指そうとも、

根本的な円高が

反転することはなく、

輸出企業を

助けることには

ならなかったのだ。

 

したがって、

「ドル買い介入は輸出のため」

という

一般に認識されている政府見解は

成立しえない。


底値まで下がったドルを

買うならともかく

ひたすら価値が下がり続けるドルを、

しかもデフレが深刻化する

前の1ドル=1〇〇円といった高い水準から

買い続けたというのは、
まさに愚の骨頂

言わざるをえない。

 

こうした状況のなかで、

売れない

海外資産を増やす
のであるから、

これでは単に、

財政赤字のアメリカの借金を

日本からの資金が

穴埋めしているだけ、

ということになってしまう。

 

自分の資産が

わざわざ減少するようなことを

政府の専断でおこなうことなど、

いったい

日本国民の誰が

望んだのだろうか。


  いや、

当時はデフレがここまで長期化するとは

思い至らなかったのではないか、

と言われるかもしれないが、

小泉政権のごとく財政再建を訴え、

公共事業費カットを断行すれば、
急速に経済活動が縮小することは

明らかである。

 

しかも規制緩和によって

民間の活力を引きだそうとすれば、

競争原理が一層働いて

価格は低下を余儀なくされる。
 

経済成長が見込めないなかで

価格下落が進む以上、

デフレが深刻化することは

避けられない。

したがって、

一段のデフレの深刻化は

予見していたはずだ。

でなければ

 

二〇〇一年
五月の段階で、

小泉首相の所信表明演説における

「痛みに耐えて」

という発言は

でてこないだろう。


安倍首相が

五〇兆円もの

米国債購入ファンドを

検討しているのであれば、

それもまた

アメリカの財政赤字の

ファイナンスに

使われることになるだろう。


  もちろん、

こうした海外投資が

収益を上げ

日本国民に広く還元される

ことになるのであれば、

異論はない。

しかし、

これまでの経緯では、

米国債からの

利回りは

国庫に納付されていたとしても、

円高によって

原資は大幅に毀損されてきた。

 

そして、

機動的に

米国債を

売ったり買ったりするわけではないがゆえに、

一回投資された資金が

戻ってくることもない

これでは

日本国民に還元されることを

期待しろと言われても

無理があろう。


▼政府短期証券残高「見込み」 199兆円の謎
  日本の政府が

再びアメリカの財政赤字の穴埋めをしようとしている兆候は、

2012年3月末、

つまり

2011年度末あたりからうかがえたのだが、

その話の前に、

為替介入のスキームについて

一般的な説明をしておこう。
 

 

為替市場で米ドルを買うために、

日本国政府は円を売る。

 

政府はこの売るための円資金
を市場から調達するのだが、

 

その際に財務省は政府短期証券と呼ばれる債券を発行する。
 

その政府短期証券を買って財務省に円資金を渡すのは、市場に参加している金融機関や
生命保険会社などの機関投資家である。

 

金融機関であればわれわれの預貯金が、生命保険 であればわれわれの保険料が政府短期証券購入の原資となる。

 

つまり、われわれの資産が
金融機関などを通じて為替介入の原資となっている
のである。
そして、

この政府短期証券は国債の一種

であるため、

政府サイドから見れば

「借金」


して計上されることになる。
 

2011年度末の政府債務の残高合計は九六〇兆円となっているが、そのうちの117

兆円が政府短期証券である。

 

この117兆円というの、政府・日銀が「ドル買い円売り
の為替介入をおこなったことで発生した政府の借金である。
  実際の残高の発表とともに、当初予算が組まれたときに、政府債務残高の「見込み」と
いう形で、翌年度末にどの程度の債務残高となるかも発表されている。つまり、この見込
み額を見れば、来年度にどの項目で政府が支出を増やすつもりなのか、把握できるといえ

?

 では、2012年度末の政府債務残高の見込み額はどうなっていたか。なかでも政府短
期証券の残高はどうだったか。2012年度末の「見込み」(当初予算でIス)では、いき
なり199兆円まで上積みされているのである。
  わかりやすい言葉で言いかえれば、2011年度末の段階で「2012年度は八〇兆円
ほどドル買い介入する予算を計上していた」ということになる(その後の補正予算ベースで

は、131.5兆円まで減らされている)。
  アメリカがそのまま「財政の崖」に突入となれば、実質的な増税、財政縮小で経済は低
迷してしまう。景気後退を回避するためには、増税をやめるか(ブッシュ減税を再度延長す
るか)、抑制するはずの軍事費などの歳出削減の手をいくぶん緩めるか、ということになる。
当然、そのためには代わりとなる財源の確保が必要となる。
  そこで期待されたのが日本のドル買い介入だったのではなかろうか。アメリカからの要
請がくれば即時対応ができるように、日本政府は予算の上積みをしたのではなかったのか。
  結果的には2012年度に実施された為替介入はなかったが、引き続きその余地は確保
されているのかどうか、国富流出の道筋のひとつであると認識して、2013年度末の政
府債務残高の見込みの内訳を確認する必要があろう。
▼アメリカの惜金棒引き政策
  日本が米国債を購人した際に、

利息は受け取れるからいいとしても、

原資が毀損するという点について

先ほど触れたが、

ここでもう少しその詳細に踏みこんでいきたい。
        ドル/円為替レート

  図10は、変動相場以降のドル円為替レート、
日本の為替介入額、そして経済事象を示して
いる(為替介入額については一九八九年以前の分
は公表されていないので、書きこんではいない)。
  為替レートとアメリカの財政赤字の関係に
は一定の法則が見いだせる。
  たとえば、一九七一年に金兌換停止を発表
して以降、外国為替市場ではドル安円高が進
んだわけだが、アメリカの財政収支の赤字は、
一九七〇年代初頭まではおおむね対GDP比
でI〜二%以内にとどまっていた。ところが、
一九七〇年代中盤からは三〜四%へと拡大し
ている。この財政収支の悪化は一九七二年か
ら激化したベトナム戦争の戦費調達のためだつた。
  一九八〇年代に入って、アメリカの財政赤字は対GDP比で四〜五%で推移するが、一
九八五年のプラザ合意時には、レーガノミクスで膨らんだ財政赤字と莫大な貿易収支の赤
字を抱えた、いわゆる「双子の赤字」が顕在化した。アメリカが、よその国に資金を貸し
出す債権大国から、借りる側となる債務国に転落したのもこの時期である。
  最近ではサブプライム危機の際に、たとえば経営危機に陥った、ニューヨークに本拠を
置く保険会社AIG(アメリカンーインターナショナルーグループ)に多額の公的資金を投入
し、経営破綻の淵から救済、市場の混乱を力ずくで抑えこんだという経緯がある。したが
ってこの時期に財政赤字が一段と拡大したのは言うまでもない。
  こうした財政収支の悪化のタイミングと為替レートを図10のように併せてみると、非常
に大まかにではあるが、アメリカの財政収支が改善している時期はドル高となり、財政赤
字が増えるような経済事象が発生すると、その後為替市場ではドルが減価することがわか
る。
  つまり、ドル高の局面では自国の赤字をファイナンスするために、海外からアメリカへ
と投資資金を呼びこみ、その後通貨制度の一方的な変更を実施することで、あるいはアメ
リカ発のバブルが崩壊することでドルが急落するというのが、これまでのアメリカ経済と
その通貨戦略の歴史である。
  相場の世界はゼロサムである以上、誰かの儲けは誰かの損失となる。そしてこの相場取
引の基本的な仕組みは、個人同士でも国家同士でも同じである。
  ドル安が進めば、アメリカにとってはドルで借りている借金を目減りさせる効果が生ま
れてくる。一ドル=二〇〇円で買った米国債が、ドル安でIドル=一〇〇円になれば、元
本だけを考えればアメリカにとっては借金が二分の一になる。
  逆に、米国債を購入している日本人のわれわれからすれば、二〇〇円返ってくると思っ
ていたものがI〇〇円にしかならないので損失ということになる。
  アメリカにとっては、海外から資本を呼びこみながらドル高にし、借りるだけ借りたと
ころでバブルの崩壊や金融危機が発生することによって、一気にドル安に転じさせること
ができ、結果的に借金を棒引きにさせる効果が生まれてくる。
  ニクソンーショック以降、ドル円の為替レートはIドル上360円からIドル=七五円

まで四〇年かけて低下してきた。アメリカの儲けは貸し手にとっては損失である以上、ド
ルを購入しアメリカにお金を貸し続けてきた日本は、マネー戦争に引きずりこまれ、ひた
すら国富を奪われてきたことになる。
ところが、そのアメリカも債権国としての立場は一九八〇年代に早々と終わり、あっと
いう間に債務大国となった。その赤字の穴埋めをしたのが、主に対米貿易黒字を叩きだし
た日本である。                               ’
  以降、世界最大の債権大国として日本は大量の資金をアメリカに流入させる中心的役割
を担うことになった。アメリカは赤字以上の投資資金を呼びこみ、余剰資金が生じるとそ
れを今度は海外へ投資し、それによって収益を上げるという構造にもなった。
  イギリスの場合もアメリカの場合も、債権大国であったときは海外への資金を貸し出す

際には、時の基軸通貨たる自国通貨を使用していた。
  ところが、日本は世界最大の債権大国になってもなお、自国通貨である円で相手国に貸
し出すわけではなく、ひたすらドルで取引をおこなったのである。
  借金をする側とされる側であれば、いつの時代でも、世界中のどこであってもお金を貸
す立場のほうが強いはずなのであるが、こと日米関係においては、資金を貸す側の日本が
借りる側のアメリカの通貨に合わせるという、非常に奇異な、いわば逆転現象が発生して
きたのである。
再びバブルの露払いをさせられる日本
  オバマ政権の第一期はまさに住宅バブルの後始末に終始した期間だったといえよう。就
任二年目の二〇一〇年のことになるが、一般教書演説で輸出倍増計画を打ちだしたことが
あった。二〇一〇年からむこう五年間にわたって、アメリカの輸出が倍増することを目指
す、というものである。どの国の輸出にとっても都合がいいのは通貨安である。したがっ
て、オバマ大統領が輸出倍増を掲げるなら、アメリカのむこう五年間の通貨戦略は通貨安
政策である、ということになる。そして、実際に米ドルは価値を下げ続け、一ドル=七五
円台に至ったわけで、まさにアメリカの通貨戦略どおりの展開であった。
  ところで、実際問題としてアメリカが輸出を倍増させようにも、これまでのアメリカに
これはと言える目ぼしい輸出製品はなかった。よく知られるように、アップル社の製品で
も多くの部品を人件費がアメリカより安い中国など海外で製造しているために、純粋な
″メイドーインーアメリカ゛とは言い切れない。
  製造業が空洞化してしまった状況では、実質的な輸出倍増計画は無理ということになる。
つまるところ、輸出への効果という点で考えれば、積極的な輸出のためのモノづくりを政
府として推進するというよりも、為替レートでドルが安くなれば、相対的に輸出競争力が
っく分、アメリカ製品が多少なりとも売れやすい状況が出てくる、といったドル安を利用
した、いわば消極的な経済戦略にすぎなかったわけである。
  むしろ、住宅バブル崩壊により海外からの流人資金が減ってドル安が生じたため、住宅
バブルで呼びこんだアメリカへの投資資金が目減りするという、つまり借金棒引きとして
のドル安効果のほうが大きかったろう。
  一部の金融機関を破綻させることによって、海外投資家を筆頭に投資資金を回収するこ
とが困難になった。為替差益を狙った投資も円高によって巨額の差損を被った。海外投資
家の損は誰かの儲けである。投資資金を呼びこんで、住宅バブルの問、高額のサラリーを
もらった金融関係者、一時的ではあるにせよ、住宅関連の従事者、あるいは減税を享受し
たアメリカ国民。投資資金によって建てられた建築物もあるだろうし、建築にともなう水
道管やガス管の配備といったアメリカ内のインフラが整えられたということもあったろう。
そうした細部に至るまで回収されることのない投資資金の恩恵が行き渡ったようなもので

206ある。そして、投資家の資金はバブル崩壊で戻ってこなくなった。
  さて、ここにきてアメリカには、輸出できるシェールガスーオイルという確固たるモノ
が登場してきた。商品市況を見れば、資源価格は引き続き高止まりしている状況である。
そうしたなかで、自国産子不ルギーを安く叩き売る必要もない。とくに于不ルギ上局騰に
窮している日本という絶好の買い手もすぐ目の前にいる。高くても売れる商品が出てきた
以上、高くても買ってくれる消費者がいる以上、これまでほかに目ぼしい手段がないとし
て採用してきた消去法的ドル安政策にこだわる必要ももはやない。
  輸出倍増計画が打ちだされた二〇一〇年の一般教書演説では、の召Oユ(輸出)という単
語は五回登場していた。今回の一一〇一三年バージョンでは辛うじて一回の登場にすぎず、
輸出倍増計画という言葉ももはや出てきていない。倍増計画は棚上げ、これまでのように
輸出に重きを置かない=ドル安政策で借金を目減りさせるステージも終了、ということに
なる。
  つまり、アメリカはドル安からドル高政策へ舵を切った。その蜂火がシェール革命と見
ていいだろう。再びドル高政策に転換したことによって、一九九〇年代後半、あるいは二
○○○年代中盤に進んだ金融帝国の強化へとアメリカは回帰していこうとしているよう八
  一時的なバブルなどにならず、実体経済を増強する革命となることがアメリカ経済、そ
して世界経済全般にとってのベストシナリオである。しかしながら、これまでの歴史を見
れば、本格的なシェール革命が進むのに先だって世界のお金を引き寄せ、財政赤字の問題
を突破し、その後は投資資金の目減りを目論んで、ドル安政策に転換するというのが定石
となっている。
  たとえば、安倍政権の外債ファンド五〇兆円も、購入した米国債をある段階で売るとい
う戦略がなければ、単にアメリカのバブルの露払いの財源で終わってしまうだろう。
当然、
その損失は日本国民に回ってくるだけである

  国内に回ることのない資金であれば、なんのための金融緩和なのか。なんのための外債
ファンドなのか、なんのための為替介入なのか。そして、購入した海外資産を売る気があ
るのか、どういった状況を想定して投資資金を撤収するのか。
  為替介入などで無作為に資金を横流しするよりも、アメリカと協力体制を組んで間接税
と直接税の扱いの違いを利用した還付金狙いの付加価値税廃止を目指したほうが、本質的
にアメリカ経済を支援することに通じるであろう。
そして両国の中間層の復活にも一役買
うことができるはず
だ。狭陵な視点は捨て、問題を広く俯瞰したうえで議論し、国富流
出で中間層が疲弊するスキームを監視する必要があろう


>.▼雇用と分配の危機は資本主義の危機を告げるサインか
  本書を通じて考察してきたのは、現在の日本経済システムには国民の大多数を占める中
間層を没落させてしまうような制度やルールが、どうやらあちこちにインストールされて
しまっている、ということである。そしてその制度やルールを通じて、中間層が失った富
が大企業や株主、海外など強者の手元に流れてしまっている
。つまるところ、消費税、法
人税などの税制、会計制度、円高是正のためとされる政府による為替介入、日本を呑みこ
むアメリカの新帝国循環、そのいずれも結局のところは国民の負担を代償にした強者のた
めの優遇措置にほかならない
のではないか。
  こうした強者によりっくられた、強者のためのルールによって、雇用者の所得は奪われ、
雇用そのものも縮小してしまった。そのことで強者と弱者の二極化か進み、経済活動が停
滞してしまった
のが、これまでの日本である。
  このままの状況を放置すれば、ますます日本経済は縮小し、その先には日本経済の本当
の意味での』妓退すら待ち構えているように思われる。
  トくヽしんÅて右‥危鉄0 か過剰‐ぎるのではないか、といぶかしがる方もおられるだろう。
しかし、私か言う「日本の衰退」とは、「はじめに」でも述べたように、財政破綻間近で
あるとか、国債がすぐにもデフォルトするとか、巷で言われる日本沈没論の意味ではない。
  そうではなく、国民の大多数が仕事に喜びも自己実現も見いだせないばかりか、それ以
前に安定した仕事に従事することすらままならない。一部大企業に買い叩かれるままに働
かされ続けるような、あるいは強国に国富を吸い続けられるような国の国民は、ひたすら
困窮するだけとなってしまうという意味である。
  大企業優遇の税制のもとで賃金を吸いとられ、為替介入という形でアメリカの借金の肩
代わりをし続ける。そうやって国内からも国外からも労働の果実が奪われていけば、中間
層の生活が傾くのは当然の道理である。それでもこれまで持ち堪えてきたのは、それこそ
戦後から今まで国民が額に汗し、貯めこんできた富の蓄積があったためである。
  今なお世界各国とくらべれば、日本の国富のレベルは抜きんでている。財務省によれば、
二〇一一年末時点で、日本の政府や企業、個人が海外に保有する資産(対外資産)から、
海外勢が日本で保有する資産(対外負債)を差し引いた対外純資産は、二六五兆四二六〇
212億円となっている。
  日本国内には経済活動をおこなう主体として、政府があり、企業があり、個人がいる言
銀がデータをだす際には、これらに金融機関やNPOなども加えて日本の経済主体としている)。
  それぞれの経済主体はお互いに資金の貸し借りをして日本経済全体を回しているわけだ
が、そうやって日本国内で資金の融通をしあっても、日本国内で使い切れないお金が二〇
一一年末の時点で二六五兆円あったということになる。それを国内で有効活用できていな
い矛盾ともどかしさがある。
  この額は二一年連続世界一を誇り、二番手である中国とは倍ほどの差額がある。この事
実を指して、「日本は世界一のお金持ち」と称してきた。日本全体ではまだまだ裕福なの
である。裕福であればこそ、一般国民から搾取する余裕があると強者は考えているのだろ
う。格差も他国にくらべればまだ目立だないかもしれない。しかし、だからといって国富
の流出を黙認していてはならないし、この富をまんべんなく国民が共有する必要がある。
  もちろん個人の力量によってある程度収入の格差があるのは当然であるし、怠け者を甘
やかすことをよしとしているわけではない。そうではなく、学びたいという意欲のある者
にはそのチャンスを与え、真面目に働いた者には対価としての賃金と生活を保障する。そ
うやって国富は国民の間で共有されるべき
ではなかろうか。そのためには、一部を優遇す
るような偏った制度や、むやみな他者へのファイナンスのために、国民の資産を流用すべ
きではない

  資本主義が歴史上「もっともマシ」な経済システムと呼ばれるのは、労働によって生ま
れた付加価値を賃金という形で労働者が享受し、それを元手に消費をおこなって豊かにな
っていくことができたからである。しかし、税などを引く前の所得である当初所得の充実
や、税金を徴収し社会保障などを通じて公平に分ける再分配をおろそかにするならば、二
クソンーショツク以降現物資産の裏づけを失った大量のペーパーマネーが虚像の資本主義
を演出するなかで、人々の生活を支える実体経済は劣化していく一方となる。
  その意味では、雇用の危機や再分配をおこなう税金や還付の制度的な欠陥というのは健
全な資本主義の危機を告げるもの
ではないだろうか。
214
▼バブルの後にやってくる史上最悪の恐慌
  強者は、それでもかまわないと言うかもしれない。自分に都合のよいルールに従って、
富を築くことができるならば、ゆがんだ資本主義でもよいのだ、と。
  しかし残念ながら、ペーパーマネーだけに支えられた資本主義システムは、もはや限界
に達しようとしているのではなかろうか。もうこれ以上、どれだけ紙幣を印刷したところ
で、劣化してしまった市場経済や資本主義経済の本質的な修復は不可能なのではないか。
  今なお、先進各国は金融緩和を続け、これでもかというぐらいの余剰資金を市中に流し
続けている。いわば、アメリカを胴元としたカジノ資本主義の最後のゲームが今まさに繰
り広げられようとしている。
  とくにリーマン・ショック以降、アメリカは政策金利を○%近くまで低下させてきた。
金利はこれ以上下げられないために、今度は量的緩和策を、第一弾、第二弾、そして第三
弾まで打ちだしてきた。アメリカ経済のみならず、欧州危機を通じて、そしてアペノミク
スによって、これまでも、そして今後も世界中で紙幣印刷の輪転機は回りっぱなしとなる
だろう。歴史上類を見ないほど、世界中に次のバブルの種がばらまかれている。
  アメリカは、ドル安とドル高を繰り返すことで、国債などの借金を棒引きしながら新た
な借金をするというシステムをつくりだしたことは前章で説明した。今回も、ドル安でア
メリカの借金を減価させた後にドル高に転換して、再び借金を垂ねていくものと考えられ
る。
  節操のない史上最大の資金供給を背景として、おそらく二〇一三年から三年ほどは日米
が牽引役となり、世界経済は未曾有のバブル期に突入するのではないか。多分それが「資
本主義最後のバブル」となるのではなかろうか。史上最大の過剰流動性資金(市中に過剰
に出回る資金)は、株式や原油、穀物などの商品相場に流れていくだろうし、アメリカが
投資資金を呼びこむステージでは為替市場でドル高が進んでいくだろう。
  実体経済の増強をともなった慎ましい経済成長にとどまれば別だが、史上最大級の資金
量をともなった史上最大の暴騰があれば、史上最大の暴落がやってくるのは当然である。

それは避けることができない。
参考・引用:岩本沙弓著書「バブルの死角ー日本人が損するカラクリ」.....